ID:vXFIGtqL氏の無題作品
「どういうことなの……?」
黒髪ロングを風の流れに泳がせながら、日本鬼子はポツリと呟いた。
時は早朝。
日課の早朝トレーニングのため家の扉を開け、目の前の光景にそのまま絶句している。
日本鬼子が見ている光景は一言でいうと壮絶だった。
『乳の話をしようではないか』
『乳の話をしようではないか』
『とっておきの乳の話をしようではないか』
なぜか日本鬼子の家に住み着いているヒワイドリ。
昨日までは1羽しかいなかったはずの妖怪が、数百羽の規模で家の前の空間にひしめき合っていた。
白の中にある赤の存在が大量な蠢きあい、真白な雪の中に赤い血が点々としているような、うすら寒い光景が広がっていた。
しかも話している内容は普段と全く変わりがないため、おぞましさも数百倍。
日本鬼子はいつもの数百倍の速さで頬が熱を持つのを感じている。
「中々壮大なことになってマスナ」
その光景に固まってしまったままの日本鬼子に声を掛けられた。
声を掛けられふとその方向を見ると、そこには得体のしれない魚っぽい何かの生ものが一匹二本脚でたっていた。
日本鬼子はそのおぞましい何かに対し、特に嫌がる様子もなく問いかける。
「ヤイカガシ。これはどういうことなの?」
「ふむ。これを話すにはちと時間がかかりモウス」
二本鬼子にヤイカガシと呼ばれた生ものは得心顔で頷きつつ答える。
というかこの魚っぽい生ものの得心顔ってなんだろう、普通表情なんてわからないよね、と日本鬼子も思っているが、
いつの間にか見わけが付くようになってしまった日本鬼子だった。
ともかくそれ始めた思考を戻し、先を促すために日本鬼子は頷きを持って先を促す。
「昨日、ヒワイドリが一羽だと乳の話がしにくいと申していたので、なら増えればイインジャネと答えマスタ。
これはその結果かと」
話が終わった。これ話凄い短いよね。とか、もしかしてヒワイドリ分裂したの?
とか色々疑問が浮かぶ。
しかし、とりあえず日本鬼子は般若面からスラリと薙刀を持ち、峰の部分をヤイカガシに向けた。
「……どうされマシタ?」
日本鬼子にしか判別できないだろう、心底疑問符を浮かべた表情を浮かべ、ヤイカガシは日本鬼子の顔を足下から覗く。
「つまり直接的にヤイカガシのせいよね?」
「…………ハッ!!」
気付いた時には遅かった。
――閃光一閃
ゴルフスイングで強打されたヤイカガシは明後日の方向に跳んでいく。
ヤイカガシが見えなくなるまで日本鬼子は眺め、息を吐く。
「ま、30分で戻ってくるでしょう。それよりも……」
そこまでで一旦言葉を切り、見る。
と、同時にヒワイドリも一斉にこちらを見た。
――はっきり言って怖い。
「それであなたたちは――」
一応言葉を掛けようとするが、その試みはあっさり潰れる。
簡単な話だ。ヒワイドリが一斉に喋り始めたからだ。
『巨乳はよい。あの豊満な曲線と瑞々しい果実を思わせる柔らかさ、そして張り。
その中にうずもれれば、至福の時を味わえよう』
『貧乳はよい。体のラインに沿った隠れた神秘、それに秘められた若々しい生命の鼓動。
その息吹を感じ取ることで至高の頂きへと到達できよう』
『いや、全ての乳がよい。すべては命の神秘にして最高である』
思わず固まった日本鬼子に対し、ヒワイドリが一斉に小首を傾げた。
雪崩のように白の模様が右20度ほど傾く。
『しかして日本鬼子はどの程度であるか?』
『巨乳である。着物に隠れて、サラシまでまいているが、この心の目ではっきりと捕えているぞ』
『いや、貧乳である。むしろサラシの中にパッドを入れて巨乳を隠してます風にしているぞ』
『いやいや、巨、でも貧でもない。むしろ品乳であると表現するのが正しいだろう』
『ふむ。その意見は賛成だ……む、どうした日本鬼……子?』
日本鬼子の体がプルプルと震えだしたのを確認し、ヒワイドリは一斉に言葉を噤んだ。
――そして、一拍程の時の後
『では、我々はあちらで乳の話をする系の仕事があるのでこれで』
「萌え散りなさい!!!!!」
脱兎のごとく逃げ出すヒワイドリと中成した日本鬼子。
いつもの如く始まった追いかけっこが始まった
そしてその様子をのんびり見る瞳が二対あった。
「平和ですねー」
「そうデスネ」
ずずっと日本茶をのみながら、小日本と15分で戻ってきたヤイカガシは、ちょこんと隣に座りながらのんびり呟いた。
終わり