ヒワイな名主
鬼子のいる山は相変わらず平和でございます。しかし山から一歩出た世の中は戦乱の世となっておりました。
ここに出てくる戦人は長年の戦を生き抜いた猛者でございます。
しかしながら、この日は村が襲われているという嘘の情報をつかんでしまされてしまいます。 ∨1
騒動を収拾するため彼らの部隊はその村に向かいます。が、そこにいたのは大勢の敵軍でした。とさ
戦人「・・・・・・」」
ボロボロになった鎧を着た戦人は馬に体を預け山を駆けていた。目は虚ろでまるで生気がない。
戦人(まさかこの期に奇襲をかけて来るとはな。。それにしてもダメな家臣を持ったものだ
自分たちを犠牲にしてまで私を助けようとするとは・・・・) その目からは涙が流れていた。
山に響く馬蹄音。鮮やかな栗毛が真っ赤に染まり、その足跡の紅葉も紅から赤へ染まっていった。
そのうち彼は意識が朦朧とし気を失った。馬に預けていた体が弾みでずり落ち、紅葉の上に倒れた。
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ヒワイドリ(以下:ヒ)「なんで俺まで食材の調達せねばならんのだ、まったく鬼子は俺を家来か何かと勘違いしておるわ。」
とか言いつつ道端のキノコを拾いながら、コレ食えるのか?と不思議そうな顔をしている。
小日本(以下:小)「勘違いも何も酉さんは姉様の下僕じゃないの?そんなこと言ってると姉様に言いつけちゃうよ?
ちなみにそのキノコは食べると性転換するみたいだよ。」
ヒ「マジか?!」 まさに仰天といったような顔をする。
小「嘘だよ・・・」小日本の冷たい視線がヒワイドリを刺す。ヒワイドリは逃げるように小日本の先を行く。
ヒ「あのガキ怖いなー。鬼子の小さい時のほうがまだ純朴なロリだったわ。」速足で小日本との間はどんどん広がる。
小「あっ ちょっと待ってよー!」小日本は走ったがヒワイドリの姿は深い山の中に消えてしまった。
小日本は追いかけるのをやめ、歩きながら食材を探し始めた。
探し始めて30分もって来たカゴの中には、さまざまな種類の木の実や野草が詰まっていた。
小(あいつは全く役に立たなかったと姉様に報告しなくちゃ)小日本がカゴをとり持ち上げ帰ろうとする。
・・・が予想外にカゴが重い。どうやら木の実の割合が多かった様で、一応カゴを背負ってはみるがカゴが地面から浮かない。
小(これはヒワイドリが戻ってくるのを待つしか・・・・)と考えてるところで、山の深くから何か聞こえる。
ヒ「---!---!」どうやら声の主はヒワイドリであるようだ。しかしまだ何を言っているか聞き取れない。
ヒ「--へんだ!--ーだ!」声がだんだん近づいてくると思ったら何故か声が無くなった。
小「何をやっておるのだアイツは。おおかた、目を輝かせながら巨大なキノコを私に手渡すのであろう。。。」
ヒ「変態だ!変態だ!おっ小日本変態だっ」ヒワイドリが現れた瞬間、小日本の閃光のような蹴りが首を強襲。
小「遅いんだよ!早くカゴ運びなよ!それに私がいつから変態になった・・?」小日本が次の攻撃の構えにはいる。
小日本の目は完全に狩りの目であり、ヒワイドリはその時股間に妙な寒気を覚えたという。(後日談)
ヒ「変態?・・・・あ!ずっと『大変だ!』って叫んでたらいつの間にか『変態だ!』になってたよv
それより本当大変なんだって!すぐそこで人が倒れてるんだ。」
言い間違いのくだりを完全にドSな顔で聞いていた小日本だが「人」と聞いてその顔は驚きに満ち溢れた。
小「人?!こんなところに?」 ヒワイドリを少し疑う顔をするがその中にも好奇心が見え隠れする。
ヒ「マジだって。なんか怪我してるっぽいし恰好からしてドコかのお侍さんだねぇ。」
ヒワイドリは腕を組みながらこれはマジ という目でこちらを見てくる。
小「とにかくその人のところへ!」小日本はヒワイドリにカゴを担がせ彼の後ろを付いていく。
そこには彼の言うとおり人が倒れていた。しかも怪我はかなりの重症らしく、腹部に接している地面には
深く血を吸いこんだ紅葉がいくつもあり、出血の多さを物語っている。
小日本はその人間を見るなり目を真ん丸にし、口を手で塞いだ。おどおどしている小日本に対し
ヒ「どうする?この人間このままだと死ぬし、たとえ家に運んでもどこまで対処できるかわからないよ?」
常識から考えてこのような件で子供に決断を迫るのはあり得ないことだ。
しかしここは鬼と妖怪が住む世界、小日本は鬼でありヒワイドリは下級妖怪。むしろ上位の者に決断を求めるのは当たり前のこと。
小日本はすこし涙声で
小「助ける。。。死にそうな人を見殺しにするなんて、わたしは、、、できないよ」
ヒワイドリはそうですかと微笑み人間を担ぐ体勢になる。しかし背中には先ほどのどんぐりのカゴが。
ヒ「少し重いな。・・・・小日本こいつの鎧を外せ。どうせもう使うときは無いだろう。」
わかったと小日本は背伸びしながら鎧の紐をほどき、地面に落としていく。
ヒ「それに刀も」
小「わかってる」彼の腰に刺さった2本の太刀。藤色の鞘・黒色の鞘。黒色の方には薄らと花の絵柄が刻印されている。
彼女がその刀に触れた瞬間、いままで気を失っていた彼の腕が彼女の腕をつかんだ。
小「うわっ!!!」完全に目を覚まさないと思い込んでいただけに驚きも大きかった。
だが、掴んできた腕は力なく、すぐに元あったように宙をぶらぶらとしている。
その後すぐに家に戻った二人は玄関で大声をあげる。
小「姉様ーー!助けて!すぐ来て!」 ヒ「一大事だぞ!おい、鬼子はいないのか?」
ヤイカガシ(以下:ヤ)「全く騒がしい二人が帰ってきたらこれだ・・・・うおぉ!?」
なぜか雑巾をもって廊下の掃除をさせられているヤイカガシ。その頭にはきっちり頭巾が。
振り向きざまにみたのは2人ではなく3人であった。しかも1人は血だらけという大惨事。
彼らの騒ぎを聞いて奥から鬼子が現れた。
彼女はそれを目にし、眉に皺を寄せた。そして目を瞑り、無言でうなずく。
すぐに処置が行われた。鬼子だけでは手が回らないのでヤイカガシにも手を借りて傷口を塞いだ。
鬼子は終始無言。ヤイカガシもその空気を読んで何も言わずに作業を続ける。
小日本は枕元で「おじさん!死んじゃだめだよ!」などと励ましなのか心の叫びなのかわからないが大声をあげている。
処置が終わったのは夜遅くだった。鬼子もヤイカガシもさすがに疲れが見える。
そこに温かいスープとおにぎり、そしてどんぐりのクッキーがヒワイドリからの差し入れとして出された。
小日本は声をあげて疲れたのだろうか、食べる前に寝てしまった。
ヤ「ひとまず峠は越えたのか?」クッキーをスープの中につけてふやけた所を食べるという、
まさしく奇行と言える事をしているのはヤイカガシ。一仕事終わった後のティータイムは格別だなとか言ってみるが
皆、長い時間集中していたので疲れて誰もツッコまない。
ヒ「それにしても、この人間を連れて来たときに、えらく景気の悪い顔をしていたじゃないか。
昔人間にいじめられたのか?まぁ俺らの長い人生に一度くらいはあるかもけどよぉ
あんな顔しちゃ小日本が悲しむぜ?」
鬼子はスープで体を温めながら、あぁ・・そうだな。すまん とだけ言って俯いた。
ヤ「・・・・・」
ヒ「・・・・小日本、この人間にべったりだな。まだ話した事もないのに。話したら幻滅するだろうよ。」
鬼「小日本がここに来てから初めて会った人間だからなぁ。興味をもっても何の不思議もないわ。」
顔をあげ小日本の寝顔を見る。気持ちよさそうに寝る小日本の手には花の刻印が施された太刀が握られていた。
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小日本の夢 兼 戦人の回想 *ここでの私は戦人ですv
20年ほど前。私はまだこの村で祖母と一緒に暮らしていた。祖母は街道に団子屋を構えており、私は毎日、祖母の仕立て作業を手伝っていた。村自体が山奥にあるのであまり人は来ないのだが旅人なら必ず一度は訪れたいと言われた隠れた名店でもあった。
季節は春であったか。その日も同じように仕立て作業が終わり表に出てみると、一人の女性が表にある腰かけに座っていた。
彼女は山奥には似つかわしくない貴人のような立ち振る舞い、そして華麗な花柄の着物に身を包み、まるで本当に桜を身にまとっているかの様に、彼女からは桜の香りがした。
私「さて、何をご注文なされますか?」普段なら村の訛りで接客するところだが、なぜか敬語になってしまった。
彼女の隣にお茶を置き話しかける。
女「おまかせしますわ。しかしココは年老いたお婆さんがやっていると思ったのですが、廃業したのかしら?」
私「祖母をご存じでしたか。私は孫で今の時間は祖母が薬草を採りに行っているところです。」
女「はい、以前に一度立ち寄った時に、美味しい団子をお土産にもらったので、改めてお礼がしたかったのですよ。
それにしてもまだ働いてるとは元気な方ですこと。」
彼女は大きな笠をかぶっており、顔をよく見ることができない。それに初心な自分には笠が無かったところで
正面から彼女の顔を覗くということは万年無理な話であろう。
席に三色団子と薬草団子を置き隣に腰かけた。ついでに自分のお茶も。
私「それにしても何故このような山奥に?しかも一人で?」 緊張してお茶の消費が激しいのは仕方ない。
女「ええ、あの山に。」と店よりも奥にある大きな山を指差した。
「あの山に綺麗な桜があるんですよ。とても大きくて見てると心が癒されるんです。」
私「それは知らなかった。ここに20年近く生きてきたけど、そのような桜の名所があるとは。
そこに一人で行かれるんですか?危ないですよ!これから日が暮れてきて山の中は闇に包まれるし熊や猪だってでる。
私で良ければご一緒しますけど?」
私は何言ってるんだー。。と言葉を発した直後に自己嫌悪に陥った。
その私の奇妙な行動がおもしろかったのだろう、彼女は笑いながら答えた。
女「ははははvそれは心強いですわ!しかし私にはこのように護身用の刀もありますから大丈夫ですよ。」
私には、何が大丈夫なのか分からなかったが体よく誘いを断られたのはわかった。
その会話の後、新しい客が入ってきた。男2人組の見るからに彼女の持ち物を狙っているのがわかった。
2人の注文を聞いて裏に行こうとしたら、案の定、事は起こったのだった。
女「あら、大変!盗まれたみたいですわ。」それにしても足の遅い方々ですわね。と危機感ゼロの彼女。
私「何流暢なこと言ってるんですか!」私は店から飛び出しすぐに2人を追いかけた。
彼女言うとおり彼らは足が遅かったので、幸い持ち物は無事だった。
私が持ち物をぶら下げて店に帰ってみると、彼女はまだ団子の残りを食べ続けていた。
女「お手柄ですね。団子も美味しいですし言うこと無しの店ですわv」 団子を綺麗に完食し、
お粗末様でした と一言。笠をとって深々とお辞儀をした。
顔をあげた時、予想はしていたが私は心を打ち抜かれた。もちろん彼女の美しさに。
私「い・・いえ//これは全く普通のことですから///あのっ・・・こちらこそありがとうございます!?///」
また私は何を言っているのだろう。謎の礼を言いながら彼女の持ち物を渡す。
女「私の持ち物なんて大した物なんてないんですけどねぇ。。でもこの刀は貴重な物かも。」
じゃあ受け取ってくださいよ。と言うが全く受け取ろうとしない。
女「そう、、あなたはこの人が気に入ったのね。」 ぼそっと彼女は言ったので聞き取れなかった。
私「はい?もう一度言ってもらってもいいですか?」
女「その刀、あなたに授けます。」
私「・・・?」
その頃からだろう。私の運命は狂いはじめたのは。
彼女は刀と荷物一式を私に押し付けて笑った。その瞬間、突風が吹く。
私は目にゴミが入らぬように袖で顔を覆う。
私「すごい風でしたねぇ。」 袖から顔をあげながら彼女に話しかける。
しかしそこに彼女の姿はなく、代わりに桜の花びらがフワフワと漂っていた。
夕暮れになり今日あった事を祖母に話した。
祖「お土産のお礼? はて、そんな事があったような無かったような・・・」
私「おい、しっかりしてくれよ婆ちゃん。どうしても知りたいんだ。」
祖「思い出したぞ! あの人か!、、、誰が年老いたお婆さんだって?!あの時はまだ60にもなっとらんわい!」
私「え・・・?婆ちゃん今年でいくつだ?」
祖「あたしは92歳だよ。自分の祖母の年齢くらいちゃんと覚えたらどうだ?」
私「そうだったな。オレも今思い出したよ。」
祖「そうかあの人か。穏やかで美しい方だったぞ。あたしの作る団子が美味いと褒め倒すから
嬉しくなって、ついお土産を渡してしまったんだな。
今となっては当時のあたし位の年齢なのかね?どうだった?やはり皺の2、3本は深く刻まれてたかい?」
私の頭は少し混乱した。。
私「いや、オレより少し年上位くらいにみえたぞ?いってて20代後半と言うところだろうか。」
祖「お前の目は節穴か!?20代と50代をどうやったら見間違えるのだ。
・・・そうか今日来たのは私とあった女の娘かもしれんな。」
確かに年齢的に考えればそれが妥当である。しかし話したときの彼女の口調は
祖母との会話を、自らが体験した事として話しているようにしか聞こえなかった。
それに彼女の様な性格なら、まず先に彼女の母と私の祖母について話すだろう。
私「あぁ、娘だったのかもな。。。」そう言って会話に区切りをつけ今日は早めに店を閉めた。
夜になっても彼女のことが気になりしかたなかった。
何故一人で山へ桜を見に?何故私に持ち物を?何故あたかも自分が過去の祖母と話したような口調で?
考え込んでも当然答えが出るわけはなく、私は諦めて床についた。
その夜私は夢を見た。
風景は今日の昼間と同じ。腰かけに座る私の隣には彼女がいた。
女「今日お授けした刀についてご説明をしに参りました。」昼間と違う表情、真面目な顔で話し出す彼女。
彼女は道に木の枝で絵を描き始めた。カリカリッと可愛らしい男女が描かれた。
「この刀は持ち主とその愛する人との縁(えにし)を結び、結ばれた縁を強く固いものにする。そんな力があります。」
と言って、絵の男と女の間に線を書き込んでいく。
「そしてこの刀は私たちの世界に居すぎたため、その力は増幅し、刀は意思を持ち始めました。
彼は忠誠心が強く、主の縁を必死に守ろうとします。」
絵にあった男女間を繋ぐ線に、まるで蛇が絡んでいくように線が書き込まれ太くなってゆく。
女「それだけならまだよかったのですが・・・・」 と彼女は続ける。
「力が大きくなり過ぎたせいで、主の周囲の人の縁まで操るようになってしまったのです。
今は鞘のおかげでそこまでの力はありませんが、刀身を出したらあなたの周りの人の運命を狂わせることになるので
絶対に鞘からは抜かないでくださいね。」
絵の中では男が持つ刀からウネウネとした線がいくつも出ており周りの人々の体を縛っている。
可愛らしい絵なのだが、おぞましい光景だった。
女「しかし鞘に入っているからと言って、周りへの影響が無くなるわけではありません。
ですが、些細な影響しかありませんし、彼自身は悪気をもってやっている事ではなく、
主を守ろうとする気持ち、多くの縁と触れ合いたいという気持ちからくるものなのです。
ですから、、、彼を捨てたりしないでくださいね。」 真面目な顔から一転、こちらに微笑みかけてきた。
わたしはその微笑みにどう返事をすればいいのかわからなかった。
彼女は立ち上がり私の前をフラフラと腕を組みながら歩く。
女「ねぇ、好きな人とかいるの?」 彼女は顔を私の顔にくっつきそうなくらい近づけながら聞いてきた。
思わぬ行動に夢にもかかわらず心拍数が上がる。 そして勢いよく首を横に振る。
女「そっかぁ、それじゃ早く好きな人ができるといいわね。」
そう言って彼女は笑いながら笠をかぶりはじめた。
女「今度あった時は一緒にあの山の桜でも観ましょ。
本当なら生きた人間は連れてけないんだけど、バレなきゃ大丈夫かなぁ」
また突風が吹きはじめる
男(待って!まだ聞きたいことがたくさんあるんだ!あなたはいったい誰・・・・)
声にならない思いが突風によってかき消された気がした。
数年が経ち私は祖母の家を出た。山の麓にある城で働くことになったのだ。
小さい頃から人々の役に立ちたいと思っていた私には嬉しい事であった。
働き始めてすぐに今の妻と出会う。静という名だった。出会ってからはトントン拍子で事は進み、
間もなく子供ができた。子供の名前は沙英という名で、妻の友人からとった名前らしい。
妻と娘のことはとても愛しており、私の生活は幸せに満ちあふれていた。
娘が七五三を迎えたころに、この世は乱れ始めた。都や大きな町との境界では戦が絶えない。
この国も山奥にありながら例外にはならなかった。
腕っぷしには自信があった私は、家族を守る為にも最前線の部隊で働くことを自ら申し出た。
初陣の時、私はお守りにはなるだろうと思い、抜いてはならないと言われた刀を腰にさしながら戦場を駆けた。
結果としてその戦には勝ち、自分の身にも大した怪我をせずに家族のもとに帰ることができた。
同じ部隊でも死者は多数出ており、城の者は軽い怪我だけで帰ってきた私を見て皆驚いた顔をしていた。
それからというもの、戦の度にその刀をさし出撃した。
勝ち戦が続くに連れて、相手にする敵が手強くなっていく。私も以前のように軽い傷で済む様なことは少なくなった。
苦しい戦況が続いた。出撃の度に多くの人間が戦場で屍と化し、いつの間にか初陣の頃からいた仲間は皆、戦場に散っていた。
そのような中で私も死を覚悟したときはあった。
遠くから射込まれた矢が私の肩にあたり、そのまま落馬。敵は数歩と離れてないところにいる。
敵はすぐに私を抑え込み、首を切りかかろうとする。
(すまない。静、沙英 私はもう終わりのようだ。沙英が大きくなるのをもう少し見守っていたかったな・・・)
瞼のうらには、3人で楽しく食事をする風景が出てくる。その瞬間、目からは涙がこぼれた。
敵が刀を大きく振りかぶり、刀は首めがけて迫って来るのが、目を閉じていてもわかる。私は死ぬのか。
しかし刀は首を襲いをしなかった。それに抑えつけていた、敵の体重も感じなくなった。
目を開けてみると、味方の一人が敵ともみ合っている。どうやらその見方は刀も持っておらず
あの敵に対し捨て身の攻撃をしたようだった。私はすぐに立ち上がり助けに行こうとするが、
間に合わず。彼は鎧と共に串刺しに、そして大量の血が噴き出した。私は駆け寄り、息を切らしている敵の首を落とす。
「大丈夫か!?待ってろ、すぐに血を止めるからな。」そう言って彼の袖をちぎり刀の刺さった彼の胸にあてがう。
よく見ると、体はまだ幼さがのこり、顔つきも子供だった。ちょうど沙英と同じくらいの年だろう。
少年はこちらを向いて涙を流しながら微笑んでいる。そしてそのまま彼は固まってしまった。
その後すぐに援軍が駆け付け、なんとか無事に城へ帰ることができた。
城の門をくぐると多くの人から歓声をもらった。
私の帰りを喜んでいる沙英の顔は笑顔で、その顔を見るのが嬉しい反面、強く胸が締め付けられた。
この戦の後も、仲間が犠牲になり自分が助かるという場面をいくつか体験した。
その度に私は犠牲になった仲間達の命を背負って生きている感覚になる。
戦場に出ることが、守ってもらった命をまた捨てに行くようで、実に申し訳ない気持ちになった。
しかし私の気持ちとは反比例するかのように、周囲の人々からの評価は高くなっていき
私の名前の冠頭詞には「不死身」や「天下の戦人」などが付けられた。
いつの間にか私は、兵士たちの中心におり、私が戦場に居るというだけで兵士達の士気は上がった。
そのような中で戦場に出たくないと思っていても、今の私の立場がそれを許さない。
ならば早くこの乱世が終わってくれと願ったが、年々戦の数は増え続けた。